堀繁氏「景観まちづくりセミナー」

みらいもりやま21

2011年02月03日 19:42

「最強のサクラは、若い女性の笑顔です(⌒-⌒)」by堀繁氏
大学の先生の講義って、こんなに楽しいものなんだ・・・、こんなことなら、まじめに授業に出ていれば良かったと思う、石上です。(以下、緑字は私の解釈による付けたし)


東京大学院 堀繁教授
専門:景観デザイン、景観工学、計画設計思想史、地域計画

守山市直属技監富田氏のコーディネートにより、2月2日に開催されたまちづくりセミナー。
私なりの解釈と画像を加えながら、レポートしたいと思います。
昨日、記事に書いたいくつかの疑問の答えは、先生のお話の中でよくわかりました。

先生は難しいことを噛み砕いて非常にわかりやすくお話し下さいました。
それをまとめた私の記事は非常にわかりにくくなっていますが、ご了承ください。

もし私が先生よりうまく伝えられるなら、私が先生になっています(笑)。


『まちづくり編』

景観とは・・・

よく勘違いするが、
・建物を立派につくる
・街路樹を植える
・舗装を立派にする
=景観ではない


景観とは、人間が見ること

人間は目で見ることでしか確認(認識)できない。
そして、見ただけではとどまらず、必ず評価する。
そこで、その見たもの(景観)が良いか悪いか、また来たいかどうかを判断する。
だから、まちづくりにおいて、景観の評価をコントロールすることが大切。



まちの活性化とは、まち(まちのお店、商業施設)にお金が落ちること。
お店の売上の積分が、まちの売上。
お店1軒あたりの売上を2倍にすれば、まちの売上は2倍。


売上=客数×客単価

客数
来街者数(お店の前を通る人)
×
お店への立ち寄り率
×
購買者率(店内に入った人の中で物を買う人の割合)


ここで大切なこと
お店への立ちより率や、購買者率は、最大でも100%。
しかも、お店が努力しても、そう簡単に上がらない。
(無論、客単価もそう簡単には上がらない)

しかし、来街者数は飛躍的に伸ばせる可能性がある。なぜなら

☆行政+お店という2倍の力で取り組める。
☆青天井(長浜など、観光客がほぼゼロだったまちが年間数百万人となった)



来街者数は売上に直結する。
まちを魅力的にすれば、売上は上がる(まちは活性化する)。

まちを魅力的にするには、景観が重要。

ニース市が素晴らしいのは、その港町自体の美しさはもちろんだが、何よりそれを一望できる場所があること。
どんな港町をつくるかでなく、立派でない自分たちのまちが立派に見える場所を選び、整備することが大切。

そのためには、お客様(来街者、観光客、利用客)の視点を考えねばならない。

設計を平面図で検討することは、必要ではあるが、これだけでは絶対に×。お客様は横から見るのである。

様々な視点から見ること、そして「どこから見られるのか」という場所を意識すること。





この写真を見て、どこのことだかわかる人は少ないでしょう。



でもこの場所があるから下の写真が撮れるのです。


見る人を意識した、この場所づくりが、まちづくりにとって大切だと先生はおっしゃっているのです。



景観の本質とは、「見る人を後ろから撮る」こと。




昨年遷都1300年で話題となった奈良「大極殿」


見る場所を整備する中で大切なこと。

何が一番大きく見えるのか・・・。
人間は自己中心的であるので、人間の評価の特徴として「自分に近いものを遠いものより、過大に評価してしまう」ところがある。




完成当初の新長田の「鉄人28号」
(鉄人の背景に見える白い古ぼけたビルは、現在は解体されてスッキリしています)

鉄人は、JR(毎日数万人が電車から見ている)に対して背中を向けています。
鬼門を考えても、本来は逆向きに立たせたかったそうなのです。


しかし、鉄人の真正面(すなわち、上の写真の撮影者の背後)には

大きいアミューズメント施設があるのです。
これを鉄人のバックにしないため、この向きに決めたということです。

これぞ景観



見せたい(見て欲しい)ものより、余計なものが大きく見えるようなことがないように。



良い景観とは「見せたいものが見やすい状態にあること」をいう。


確かに余計なもの(電柱・電線や他の建物)が多少あっても、見たいものが一番大きく見えれば、良い景観だと感じます。


清水寺五重塔しかり




通天閣しかり



[
伏見の酒蔵しかり





景観の本質がわかったところで、具体的なまちづくりの話


まちを構成する要素は、たった2つ。

・道
・沿道の建物

6:4で影響がある。

まちは道からしか、見ることができないのである。
だから、道の整備が重要

この道において、ホスピタリティ表現(人を大事にするカタチをどれぐらい入れられるのか)が大切。

車より、人を大事にしている道にしなければならないということ。


バルセロナでは、道の真ん中(道の特等席)を歩道としている上に、車道より幅が広い。
車道から車道らしさを排除し、車でなく人を大事にしているのが伝わってくる。
そして、「どうぞくつろいで下さい」といわんばかりのベンチ(休憩スペース)が設置されている。



道づくりのノウハウ・・・座る人の姿(サクラ)をどれくらいつくれるか。


ベンチをただ置けばいいというのではない。
休憩する人が、くつろげる=座った人の足が歩行者の邪魔にならない
居心地の良いスペース(これを自己領域という)が必要。



舗装を変える工夫だけで、自己領域をつくりだしている彦根四番町スクエア





常にサクラが絶えない、長浜黒壁前の休憩スペース


人は、他の人が楽しそうにしている中で、自分も楽しむという特徴がある。
ディズニーランドを貸し切りにしても楽しくない。
自由に複数の人が休め、軽食の提供がある滞留利用拠点(みんなが楽しそうで、集まれる施設)がまちなかには必要不可欠である。




そんな先生のお話を聞いて、私なりに過去に行った場所を振り返ってみました。
以下、私が、ホスピタリティ表現を感じる「道」の例


「神戸岡本商店街」ここは車も通行可ですが、完全に歩行者が主役。石畳に相当お金がかかっていますが・・・。




「岡山県倉敷市」舗装の色が真っ黒でないだけで、印象が違います。




「石川県金沢市」木の横に配置することで、自己領域を確保したベンチ




「静岡市呉服町通り」歩道の幅もさることながら、車道がクネクネ曲げられていて、歩行者をメインにしているのが伝わってきます。




「伊丹市三軒寺前広場付近」車道よりも圧倒的に歩道の幅が広い




「奈良市三条通り」歩行者が思わず車道を歩いてしまう




「長浜市」かつての通行量調査で4人と1匹だった交差点。やはり舗装に工夫が見られます。

今まで、そういう見方をしてこなかったので、振り返ると非常に面白いです。





つまり・・・


「守山銀座通り」



「ほたる通り」



「中山道守山宿」


「もっとはじっこ歩きなさいよ。」
的な「道」ではダメだということなのです。




『店づくり編』


店の話に入る前に「まちづくり」「店づくり」の共通項として・・・

人間は歩くときに少し下を向いて歩く(植木等は滅多にいないということ)
そして、人間は見ていないところを評価の対象としない

すなわち、2階(建物の上方)にお金をかけるくらいなら、まちづくりにおいては「道路」、店づくりにおいては「店の入り口」にお金をかけるべきなのだ




三種の神器を仕掛ける

1.挨拶の装置(こんにちは)
・・・植物・花鉢など

2.迎客の装置(いらっしゃいませ)
・・・ベンチ(最重要)・テーブル・イス・日よけ・照明・のれん・木のドアなど

3.集客の装置(買っていって)
・・・メニュー・看板・のぼり・商品(サンプル)など


上から2:4:1の割合が理想。


ともすると、集客の装置ばかりになりがち。

お客様は「俺を儲けさせろ」的なのが大っきらい。
儲けようと思うなら、「買ってけ」と声高に叫ぶのはNG。


そして、それぞれの装置のクオリティが重要。

具体的には・・・


【花の鉢】(挨拶)

みずみずしい植物。

禁止事項
直置き・プラスチック製・他と同じもの(そばやとイタリアンが同じとかおかしい)
=手抜きと感じさせる


【照明】(迎客)

店前に設置するのは、提灯アンコウの提灯にあたるものとなる。
明るいうちから、点灯する。
エコが気になるなら、全体のルクス数を抑え、店前を通る人の目に直接飛び込む工夫をする。

店内に設置するのは、
シーリング(天井直接)・・・×
ペンダント(天井からのつり下げ)・・・〇 
外から見える位置まで下げておく。


【ドア】(迎客)

であることがもの凄く重要。
木には人をもてなす力があるのだ。
アルミサッシでは、立ちより率が大きく下がる。


※私、前職で木造住宅を販売していました。
耐震性を気にして、鉄骨か迷っているお客様に対し、
「想像して下さい。あなたは凍てつくように寒い冬、あるいは焦げるように暑い夏、裸足で橋を渡らなければならないとしたら、木か鉄、どちらを選びますか?」
が殺し文句でした。
これは、断熱性の話なのですが、四季のある日本にとって、木というものは、やはり特別な存在なのだと思います。



【メニュー】(集客)

小ささがポイント。
遠くから目立たせるのではなく、見る為に近寄らせなければならない。
近寄らせれば、集客装置としては成功。


【看板】(集客)

イーゼル看板等のポイントは、手書きであること。
既製品を置いているのと、5%は集客率が違う。
手書きには、「私はあなたをお迎えします」という気持ちが感じられる。




どんなものを売りたいかではなく、立ち寄り率を上げる工夫を。

店前のガラスへのPOP貼りだし、禁止。
奥の壁にカレンダーや時計を掲示するのも、禁止。
それを見て喜ぶお客様などいない。

常にお客様視点で。
失敗するのは、レジにいる主人視点になりがちだから。

レジにいる主人は、通りを眺めたいかもしれないが、通行人は主人と目があうことなど望んでいない。






コの字型が大鉄則。または八の字型。


1.客の目線より下の照明が重要
   
   天井をいくら明るくしても意味がない。

   ・行燈照明
   ・置き照明
   ・棚照明
   ・スポット照明(目線より上に設置していいのは、テーブル・商品を照らす為のものだけ)


2.壁は極力見せない

   壁は拒絶の力が強いので、天井から床まで商品で隠す。

3.木を多用すること

   もてなす力がうまれる。

4.商品の見えがかりを大きく

   積むのではなく、立てかける工夫。






以上の話を伺って、どういう店づくりがいいのかなと過去に訪れた店を振り返り、観察する訓練をしてみました(以下、私の勝手な解釈であり、蛇足です)。


姫路のとある飲食店

挨拶の装置
「みずみずしい植物」が端から端まで、たくさん置いてあります。
地面に直接置いてあるのがちょっと減点ですが・・・。


迎客の装置
最重要である「ベンチ」がないのは残念ですが、「のれん」がかけられ、
提灯アンコウの提灯となる、「照明」が効果的な場所に設置されているのが見てとれます。
あと、いいなぁと感じるのは至るところに「木」が見えます。


集客の装置
見えにくいですが、入口右手に掲示してあるのは、「手書きの看板」
大きすぎず、近づかなければ読めないのがいいと思います。
商品サンプルが多すぎるせいで、『買っていって』が前面に出過ぎているのが、玉に瑕ではありますが、お店側のやる気と迎え入れる気持ちの伝わってくる店前だと私は思います。




先生は激戦区(超高地価)の例として、京都の先斗町を挙げられ、そこで流行っているお店を紹介しておられましたが、私が行った中で、過去最も印象的だったのは、ここです。



青春通り(100以上の商店が軒を連ねます)
(⇒なぜか人気記事ランキングで上位に躍り出ている過去の記事「飛田新地~新世界」参照)



挨拶の装置
この通り全ての商店の前に「みずみずしい植物」が設置されています。


迎客の装置
まさに「提灯」そのものが全ての店に設置され、「のれん」があり、「木」の欄間によるぬくもりがあります。


集客の装置
一階の店前に「メニュー」、「看板」、「のぼり」など余計なものは一切ありません
入口に近づき、覗きこむと「商品」(あくまで比喩です)が、はっきり見えるようになっている仕掛けです。


これぞまさに、2:4:1。理想の店(商店街)づくりといえるのではないでしょうか。

しかも各店から威勢の良い「こんにちは!いらっしゃい」という挨拶が絶えることはありません。

これで道路が人を大切にするかたちに整備されれば、完璧ですね。

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