2010年11月09日
新参者
新参者の石上です。
先日訪ねた、和歌山県田辺市。
そこの生まれとされる、武蔵坊弁慶には謎が多く、実際は後世の物語の中で、作り上げられた人物だといわれています。
その武蔵坊弁慶が主役となった勧進帳。
江戸時代、勧進帳などの歌舞伎が活発に行われた芝居小屋が集まっていたのが、東京都の日本橋人形町。
現在も、その名残りとして、浜町緑道の入り口には弁慶像が立っています。
今回は、そんな日本橋人形町が舞台になっている物語の紹介です。
右に見えるのは、宝島社出版の「2010年版このミステリーがすごい!」
読んで字の如く、毎年、年末にその年の「すごいミステリー」を書評家、書店員、愛好会、大学サークルなど、ミステリー小説愛好家たち総勢72名の投票によって、順位をつけているのです。
「ただ単に売れた本」ではなく、結構マニアックな作品が選ばれたりもするので、私も重宝しています。
特に2004年版の1位「葉桜の季節に君を想うということ」などは、そのメロドラマ系なタイトルといい、歌野晶午という作家を全く知らなかったこともあり、この本がなければ、絶対に手にしていなかったと思います。(めちゃくちゃ面白いのでオススメです)
この2010年版で堂々の1位に輝いたのが、「新参者」
筆者はかの有名な東野圭吾氏ということで、逆にエッ?という違和感がありました。
彼は既に、2006年版において、福山雅治氏主演の映画化で記憶に新しい「容疑者Xの献身」によって、このミス1位を獲得しているのです。
過去に2度以上、1位を獲得しているのは、高村薫氏だけであるという事実。
またどちらかといえば、大御所というよりもまだ無名の作家の発掘の場であって欲しいと個人的に思っているので、大御所過ぎる作家の選出は???でした。
普段は、「高い」「重い」という単純な理由で、ハードカバーを買わずに文庫本を待つ私。
しかし、このブログで「悪夢の商店街」をご覧になったA氏が、「これも商店街を舞台にした素晴らしい本だよ」と私にプレゼントしてくださいました!
東野氏自身が「・・大がかりなトリックや意外性があるわけではなく、ミステリとしての迫力には少し乏しい・・」とおっしゃるように、とんでもない大どんでん返しがあるわけではありません。
でも、随所にちりばめられた下町の情緒溢れる人間ドラマが堪らないのです。
「人を思いやる」そのあたたかい心に何度も胸を打たれ、涙が流れました。
この作品には、綿密な取材に基づいたリアリティがあります。
第一章「煎餅屋の娘」において、あるトリックが使われます。
そのトリックは人を騙すためのものではなく、人を思いやる気持ちから行うもの。
実はこれを、東野氏はかつて実の母親に使ったそうです。
アイデアとしてはいつでも小説にできたが、母にトリックがばれてしまう。
母親が亡くなったので、この小説を書くことにしたということです。
また、第四章「時計屋の犬」において、とても緻密な時計屋の描写に驚かされました。
それもそのはず、東野氏の実家は時計屋なのだそうです。
取材だけでない、筆者自身の経験が確固たる土台となっているのです。
この作品の大きな魅力の一つでもある登場人物の一人、加賀恭一郎(他の東野作品にも登場する、優秀な刑事)の作中での一言。
「捜査もしていますよ、もちろん。でも、刑事の仕事はそれだけじゃない。事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人だって被害者だ。そういう被害者を救う手だてを探しだすのも、刑事の役目です」
こんな素敵な刑事さんに出会ってみたいものです。
この小説を読んでいて、殺人事件の捜査と、まちづくりに共通点があることに気付かされました。
加賀は、一見関係のない、まちの人のちょっとしたトラブルや悩み事に首を突っ込んでいきます。
手柄を欲しがる他の刑事なら、相手にしないような些細なことにも・・・。
でも、そのおかげで一つ一つ、謎は解けていくのです。
そして何より、人々の信頼を勝ち得ていきます。
その信頼により、加賀は他のどの刑事よりも早く正確に情報を掴み、事件を解決へと結びつけたのです。
Aさま、数ある中から、あなたがこの本を私に授けた理由がわかりましたよ~!
「急がば回れ」ということですね、肝に銘じます。
作品の最後のシーン・・・
まちにすっかり溶け込み、煎餅屋の娘さんと親しげに会話する加賀。
訝る先輩刑事から「あんた一体、何者なんだ?」と尋ねられ、こう答えます。
「何者でもありません。この町では、ただの新参者です」
先日訪ねた、和歌山県田辺市。
そこの生まれとされる、武蔵坊弁慶には謎が多く、実際は後世の物語の中で、作り上げられた人物だといわれています。
その武蔵坊弁慶が主役となった勧進帳。
江戸時代、勧進帳などの歌舞伎が活発に行われた芝居小屋が集まっていたのが、東京都の日本橋人形町。
現在も、その名残りとして、浜町緑道の入り口には弁慶像が立っています。
今回は、そんな日本橋人形町が舞台になっている物語の紹介です。
右に見えるのは、宝島社出版の「2010年版このミステリーがすごい!」
読んで字の如く、毎年、年末にその年の「すごいミステリー」を書評家、書店員、愛好会、大学サークルなど、ミステリー小説愛好家たち総勢72名の投票によって、順位をつけているのです。
「ただ単に売れた本」ではなく、結構マニアックな作品が選ばれたりもするので、私も重宝しています。
特に2004年版の1位「葉桜の季節に君を想うということ」などは、そのメロドラマ系なタイトルといい、歌野晶午という作家を全く知らなかったこともあり、この本がなければ、絶対に手にしていなかったと思います。(めちゃくちゃ面白いのでオススメです)
この2010年版で堂々の1位に輝いたのが、「新参者」
筆者はかの有名な東野圭吾氏ということで、逆にエッ?という違和感がありました。
彼は既に、2006年版において、福山雅治氏主演の映画化で記憶に新しい「容疑者Xの献身」によって、このミス1位を獲得しているのです。
過去に2度以上、1位を獲得しているのは、高村薫氏だけであるという事実。
またどちらかといえば、大御所というよりもまだ無名の作家の発掘の場であって欲しいと個人的に思っているので、大御所過ぎる作家の選出は???でした。
普段は、「高い」「重い」という単純な理由で、ハードカバーを買わずに文庫本を待つ私。
しかし、このブログで「悪夢の商店街」をご覧になったA氏が、「これも商店街を舞台にした素晴らしい本だよ」と私にプレゼントしてくださいました!
東野氏自身が「・・大がかりなトリックや意外性があるわけではなく、ミステリとしての迫力には少し乏しい・・」とおっしゃるように、とんでもない大どんでん返しがあるわけではありません。
でも、随所にちりばめられた下町の情緒溢れる人間ドラマが堪らないのです。
「人を思いやる」そのあたたかい心に何度も胸を打たれ、涙が流れました。
この作品には、綿密な取材に基づいたリアリティがあります。
第一章「煎餅屋の娘」において、あるトリックが使われます。
そのトリックは人を騙すためのものではなく、人を思いやる気持ちから行うもの。
実はこれを、東野氏はかつて実の母親に使ったそうです。
アイデアとしてはいつでも小説にできたが、母にトリックがばれてしまう。
母親が亡くなったので、この小説を書くことにしたということです。
また、第四章「時計屋の犬」において、とても緻密な時計屋の描写に驚かされました。
それもそのはず、東野氏の実家は時計屋なのだそうです。
取材だけでない、筆者自身の経験が確固たる土台となっているのです。
この作品の大きな魅力の一つでもある登場人物の一人、加賀恭一郎(他の東野作品にも登場する、優秀な刑事)の作中での一言。
「捜査もしていますよ、もちろん。でも、刑事の仕事はそれだけじゃない。事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人だって被害者だ。そういう被害者を救う手だてを探しだすのも、刑事の役目です」
こんな素敵な刑事さんに出会ってみたいものです。
この小説を読んでいて、殺人事件の捜査と、まちづくりに共通点があることに気付かされました。
加賀は、一見関係のない、まちの人のちょっとしたトラブルや悩み事に首を突っ込んでいきます。
手柄を欲しがる他の刑事なら、相手にしないような些細なことにも・・・。
でも、そのおかげで一つ一つ、謎は解けていくのです。
そして何より、人々の信頼を勝ち得ていきます。
その信頼により、加賀は他のどの刑事よりも早く正確に情報を掴み、事件を解決へと結びつけたのです。
Aさま、数ある中から、あなたがこの本を私に授けた理由がわかりましたよ~!
「急がば回れ」ということですね、肝に銘じます。
作品の最後のシーン・・・
まちにすっかり溶け込み、煎餅屋の娘さんと親しげに会話する加賀。
訝る先輩刑事から「あんた一体、何者なんだ?」と尋ねられ、こう答えます。
「何者でもありません。この町では、ただの新参者です」
Posted by みらいもりやま21 at 23:27│Comments(2)
│つぶやき
この記事へのコメント
「新参者」テレビで見ていました。家内は本も持ってます。商店街を舞台にした本には詳しいみたいなので参考にされては・・・
Posted by 鉄人 at 2010年11月10日 10:06
>鉄人さま
いつもいつもありがとうございます。
ほぅ、奥様やるな・・・。今度は、小説談義に花を咲かせましょう。
いつもいつもありがとうございます。
ほぅ、奥様やるな・・・。今度は、小説談義に花を咲かせましょう。
Posted by 石上 at 2010年11月10日 12:09